孤独な部屋で



 薄暗く孤独な部屋。
誰も来ない部屋。
輝く目を、少年は一人開けていました。
月光が、つめたくやさしく少年を照らし、まるで少年の孤独を見せつけるかのようでした。
 この時間、誰も来ません。
孤独の時間、星空と月だけが少年の元に訪れ、何も語らないで去ってゆきます。
ベットの上の少年への言葉はありません。
 夜眠れないのです。

 少年は病に伏していました。
もうずっと体をまともに動かしていません。
体を動かすなと、お医者さんから言われているためです。
朝になれば、お医者さんは来ます。
昼になれば、両親は来ます。
でも、孤独でした。
何か、何かが、冷たいのです。
冷たい道具で体をいじられるからでしょうか。
やけに手馴れてしまった、その態度が冷たく感じるのでしょうか。
 いいえ、よくわかりませんでした。
ただ、なんと無しに、一人ぼっちなのです。

 眠ってしまったら、孤独は無くなります。
眠ってしまえば、孤独も眠りますから。
でも今は、目を閉じても何かが窮屈で、目を開けてしまうのです。
そんな時でした。
何かが泣いている声を聞いたのは。
 いいえ、少年のいる部屋の片隅で誰かが、泣いていたのです。
悲しく、泣いていたのです。
「誰?」と少年はその人に問います。
でも、答えはありません。
ただ、近づいていました。
 それは一人の少女でした。
少年より年上の、少女だったのです。

 真っ黒な髪と目で純白の服を着た、少女でした。
顔は大人びて、目鼻ははっきりしていました。
そんな大人びた感じとは裏腹に、少年の顔を覗き込みながら、少女は泣いていたのです。
「どうしたの?」
少年の問いに、少女はかすれた声で答えます。
「悲しいの」
「なんで?」
「死んじゃったから」

 ゆっくりと、ゆっくりと少女は言葉を少年に向かって出していきます。
涙で、途切れながら。
そして、こう言ったのです。
「私、死神なの……」と。
そのまま、泣きながら続けました。
「誰かが死んだ後、泣くだけの死神なの……。
何かが無くなった時泣くだけの死神なの……」
「誰が死んだの」との問いに、少女はこう答えたのです。
「たくさんの人が死んで、明日またたくさんの人、死んじゃうの」
 再び、少女は泣きました。

 少女は、右手で必死に大きな両目を押さえています。
その間から、大きな涙がこぼれていました。
前かがみになり、その左手は少年の右手に触れました。
その手は細く柔らかい、やさしい手でした。
少年はその手を軽く握りました。

 しばらく、少女は泣いていました。
そうして、徐々に少女の泣き声は止まりました。
少年は手の力を緩めると、少女の手は離れました。
「ありがとう。
悲しんでくれて。
一緒に、悲しんでくれて」
泣きやみ、顔に涙の跡が残る顔を少年に見せました。
明かりがもう少しあったならば、涙で充血した目が見えたでしょう。
そんな顔を少年に見せると、少女はスーッと消えました。
孤独に夜泣く、少女は消えたのです。


 たまに、少年の元にあの少女は来ます。
しくしく泣く、少女は来ます。
人が死んだと、立派な何かが壊れたと、泣きます。
魂を持つ何かがむごたらしく死んだと泣きます。
少年は、そんな彼女の手を優しく握るのでした。

 孤独な、二人の手が結ばれるのでした。


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